2025/05/03 押井守映画祭2025《立喰師 編》

『立喰師列伝』を久しぶりに見ました。
以前、初めて映画館で見たとき、モノクロの実写映画だと勝手に思い込んで、1960年代末の実験映画のようだと思ったのでした。
ところがその印象、思い込み、まったく間違いなのでした。
後日、自宅でブルーレイを視聴して驚きました。
まずモノクロじゃない。
また実写映画じゃない。
さらに、映像の美しさには驚嘆です。
実写映画では現実の雑多なものが画面に映り込んでいますが、そういうものが一切ありません。
画面の隅々まで、描いたように徹底的に管理されています。
『立喰師列伝』は、実写映像を使ったアニメーションなのです。
「戦後」を描き出す
今日の押井監督のお話によると「日本の戦後をきちんと扱った映画がない」、「戦後をちゃんと描こう」と、取り組んだ作品ということです。
昭和20年の敗戦から、およそ40年間あまりの昭和の時代を大きな枠組にしています。
そこに、時代を追って飲食店と客との手合わせを幾つも重ねていきます。
「戦後を描く」と明言されて、「ああ、そうなのか」と思いました。
終戦と占領、政治の季節と学生運動、高度経済成長と新しいシステム。
現実のうねりと価値の変容の傍らで感じざるを得ない、この、置いていかれるような感じ。取り残されていくような感じ。現実への違和感。そんなものを受け取ったように思います。
俳優陣も超豪華
月見の銀二 吉祥寺怪人
ケツネコロッケのお銀 兵頭まこ
哭きの犬丸 石川光久
冷やしタヌキの政 鈴木敏夫
牛丼の牛五郎 樋口真嗣
ハンバーガーの哲 川井憲次
フランクフルトの辰 寺田克也
中華のサブ 河森正治
アニメ業界では著名な方々の貴重なご尊顔を拝見できるのも一興です。
押井守監督の「映像」
今回久しぶりに拝見して、映像の自在さに驚かされました。
これを創り出した押井守監督の、感性も、技術も、凄い、の一言につきます。
ゆがんだ顔の表情やコミカルな姿態。
画像の切り取り方や配置やバランス。
早い、静止、強弱のあるタイミングで転がっていく時間。
ぬめっとしたグラデーションの、ほとんどモノクロームに見える映像を、厳選された色彩が支えています。
ところどころにドーンと居座る印象的な、美しい映像。
なんなんでしょうね。このテイスト。癖になります。押井監督の『紅い眼鏡』の映像もこの感じのテイストでした。
まさに「押井守体験」というような映像です。
文語体の言葉が構築する箱
映画のかなりの部分を通して山寺宏一氏のナレーションが続いています。
解説と考察とが延々と切れ目なく続きます。
その言葉たちが口語体でなく、文語体で、昭和の戦前の文士の文章を彷彿とさせます。
硬質で、そこには甘えや優しさなどなく、心地よいわけでもない。
でも、かつての戦前の小説の文体のように、ものものしい桐の箱のように、映画のひとつのスタイルを形成していて、なぜかずっと聞いていたくなるのです。
そう、『機動警察パトレイバー』の荒川、『イノセンス』のキム、の竹中直人氏の長台詞が思い浮かびます。
そういえば、荒川も戦後を語っていました。
しかし、あれとはちょっと違って、何かこう、文語体が時代への違和感を強く醸し出しているように思います。
そしてところどころにおかれる静寂。
また肉声の口語体のセリフ。
対比して際立っています。うまいです。
川井憲次さんの「音楽」
さてさて、川井憲次氏の音楽が素晴らしい。音楽を超えて、音、を聞いている感じ。
全身が満たされていくような音。あの、お腹の底から体全体を持っていかれるような、静かな、力強い、音。
自分は川井憲次氏の音楽がすごく好きなんだと、再認識しました。


押井守映画祭記念グッズの、押井守監督の肖像画は、黄瀬和哉さんのイラストとのことです。
新文芸坐×アニメスタイル Vol.189
『立喰師列伝』 2006年 104分 35㎜
『真・女立喰師列伝』 2007年 123分 DVD
2025年5月3日(土)16:00(終映21:30)
新文芸坐
上映前トーク
監督・押井守
監督・辻本貴則
アニメスタイル編集長・小黒祐一郎
『真・女立喰師列伝』については別の機会に譲ります。
