2025/05/03 押井守映画祭2025《立喰師 編》

『立喰師列伝』を久しぶりに見ました。
以前、2006年、初めて映画館で見たとき、モノクロの実写映画だと勝手に思い込んで、1960年代末の実験映画のようだと思ったのでした。
ところがその印象、思い込み、まったく間違いなのでした。
後日、自宅でブルーレイを視聴して驚きました。
まずモノクロじゃない。
また実写映画じゃない。
さらに、映像の美しさには驚嘆です。
実写映画では現実の雑多なものが画面に映り込んでしまいますが、そういうものが一切排除されています。
画面の隅々まで徹底的に管理されています。
『立喰師列伝』は、実写映像を使ったアニメーションなのです。
「戦後」を描き出す
「立喰師」ですが、架空の生業とのことです。
物語の世界にはよくある、例えば吸血鬼とか、異世界の王国の剣士とか、魔導士とかのように、描きたいもののために仮構された存在です。
今日の押井さんのお話によると「日本の戦後をきちんと扱った映画がない」、「戦後をちゃんと描こう」と、取り組んだ作品だそうです。
昭和20年の敗戦から、およそ40年間あまりの昭和の時代を大きな枠組にしています。
そこに、時代を追って飲食店店員と客である立喰師との手合わせを幾つも重ねていきます。
「戦後を描く」と明言されて、「ああ、そうなのか」と思いました。
終戦と占領、政治の季節と学生運動、高度経済成長と環境汚染、増殖していく欲望のシステム。
何かが欠落したまま動いていく現実への違和感。現実のうねりと価値の変容の傍らで感じざるを得ない、この、置いていかれるような感じ。取り残されていくような感じ。
そういうものを、飲食店店員と立喰師の対峙の様態の変遷を通して、受け取ったように思います。
文語体の言葉が構築する箱
映画のかなりの部分を通して山寺宏一氏のナレーションが続いています。
「解説」と「考察」のようなものが延々と切れ目なく続きます。
延々と続くといえば、『機動警察パトレイバー』の荒川、『イノセンス』のキム、の竹中直人氏の長台詞が思い出されます。
そういえば、荒川も「戦後」を語っていました。
でも、今回はちょっと違います。
言葉たちが口語体でなく、文語体、もしくは文章体なのです。
昭和の文豪の文章を彷彿とさせます。
硬質で、そこには甘えや優しさなどなく、心地よいわけでもない。
それが、かつての戦前の小説の文体のように、もったいぶった桐の箱のように、映画のひとつのスタイルを形成しています。
明治、大正から続く西欧文化崇拝の残骸を体現するかのような、戦前の小説のまがいのこの文語体が、まさに「戦後」を感じさせます。
延々と続く文語体の行進が、通底するリズムをつくりだしていて、これが現実への違和感を距離感として、強く醸し出しているように思います。
そしてところどころに、意図的に置かれる長い静寂。
そこに、肉声の、口語体のセリフ。
対比して際立っています。うまいです。
俳優陣も超豪華
月見の銀二 吉祥寺怪人
ケツネコロッケのお銀 兵頭まこ
哭きの犬丸 石川光久
冷やしタヌキの政 鈴木敏夫
牛丼の牛五郎 樋口真嗣
ハンバーガーの哲 川井憲次
フランクフルトの辰 寺田克也
中華のサブ 河森正治
アニメ業界内では著名な方々の貴重なご尊顔を拝見できるのも一興です。
押井守監督の「映像」
今回久しぶりに拝見して、映像の自在さに驚かされました。
これを創り出した押井守監督の、感性も、技術も、凄い、の一言につきます。
ゆがんだ顔の表情やコミカルな姿態。
画像の切り取り方や配置やバランス。
早い、静止、強弱のあるタイミングで転がっていく時間。
ほんとに上手です。たいへんな力量です。
また、映像がなんとも美しい。
ぬめっとしたグラデーションの、ほとんどモノクロームに見える映像を、厳選された色彩が支えています。
ところどころにドーンと居座る印象的な、美しい映像。
なんなんでしょうね。このテイスト。ほんとうに特別ですね。癖になります。
『紅い眼鏡』の映像もこの感じのテイストでした。『アヴァロン』もそうです。
この美しさ。まさに押井さんの作品でしか見たことのない映像です。
私見ですが、押井さんの作品は、人間ドラマにとどまらず、それを超えたもっと次元の違うところに、描きたい思い、目的、が置かれていることが如実に感じられます。
押井さんの映像のあの特別な感じ、あのテイストは、それが背景にあって創り出されているように思います。
さてさて。デジタルで表現の可能性が広がっているとはいえ、それに精通しスタッフを動かし、独自のものを創り上げていくには、相当な技術力とセンスが必要です。
押井さん、きっと、「手で描いちゃった方が早いぜ」などと毒づきながら、忍耐強くその最先端に立ち続けておられるのでしょう。
川井憲次さんの「音楽」
忘れてならないのが、いつも一緒の川井憲次氏の音楽で、これがまた素晴らしい。音楽を超えて、音、を聞いている感じ。
全身が満たされていくような音。あの、お腹の底から体全体を持っていかれるような、静かな、力強い、音。
自分は川井さんの音楽がすごく好きなんだと、再認識しました。
みる かなた
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押井守映画祭記念グッズの、押井守監督の肖像画は、黄瀬和哉さんのイラストとのことです。
新文芸坐×アニメスタイル Vol.189
『立喰師列伝』 2006年 104分 35㎜
『真・女立喰師列伝』 2007年 123分 DVD
2025年5月3日(土)16:00(終映21:30)
新文芸坐
上映前トーク
監督・押井守
監督・辻本貴則
アニメスタイル編集長・小黒祐一郎
『真・女立喰師列伝』については別の機会に譲ります。
